クリッパーズ対サンダー。この一戦の裏には、NBAでも屈指の「引っ越し人生」を歩んだ2チームの数奇な歴史がある。シアトルから奪われた名門と、3つの街を渡り歩いた流浪の船。その全貌を追う。
シアトルからオクラホマへ━サンダーが背負う「奪われた街」の記憶
オクラホマシティ・サンダーの正体は、かつてシアトルで41年間愛された「スーパーソニックス」だ。NBA優勝経験もある名門が、なぜ街ごと捨てられたのか。
1967年創設━シアトル・スーパーソニックスという名門
英語版Wikipediaによれば、スーパーソニックスは1967年にNBA拡張チームとして誕生した。
シアトルといえばボーイング、マイクロソフト、スターバックス。テック企業の聖地として知られるあの街に、NBAチームがあった時代が確かにある。
プレーオフ進出は22回。地区優勝6回。NBAファイナルにも3度進出している。にわかファンどころか、ガチのNBA古豪だったのだ。
1979年の栄光━唯一のNBA制覇とデニス・ジョンソン
ソニックス最大の栄光は1979年のNBA優勝だ。
ワシントン・ブレッツを4勝1敗で下し、フランチャイズ唯一のタイトルを手にした。HistoryLink.orgの記録では、ファイナルMVPはデニス・ジョンソン。ガス・ウィリアムズ、ジャック・シクマ、フレッド・ブラウンといった猛者たちがコートを駆け回った。
40代以上のNBAファンなら、この頃の名前にピンとくる人もいるのではないだろうか。
2008年、街を奪われた日━移転承認「賛成28・反対2」の衝撃
転機は2006年。オクラホマシティの実業家クレイ・ベネットがソニックスを買収した。
Wikipediaの移転記事によれば、ベネットはシアトルに新アリーナの公的資金を要求したが、市側は拒否。結局、2008年4月のNBAオーナー会議で移転が賛成28対反対2の圧倒的多数で承認された。
シアトル市への違約金は4,500万ドル。さらに2013年までに新チームが来なければ追加3,000万ドルという和解条件がついた。「スーパーソニックス」の名称とチーム歴史は、将来シアトルにNBAが戻った場合に返還される約束になっている。
金で解決した、と言えばそれまでだ。だがシアトルのファンにとって、41年間応援してきたチームが一夜で消えた傷は、カネでは癒えないだろう。

バッファロー→サンディエゴ→LA━クリッパーズ三都物語と無断移転事件
サンダーが「奪われた」チームなら、クリッパーズは自ら漂流した船だ。3つの都市を渡り歩いた歴史は、NBA随一の珍道中と言っていい。
1970年バッファロー・ブレーブス━クリッパーズの知られざる出発点
Wikipediaのクリッパーズ記事によると、チームの出発点は1970年に創設されたバッファロー・ブレーブスだ。
ポートランド・トレイルブレイザーズ、クリーブランド・キャバリアーズと同期のNBA拡張チーム。バッファローといえばニューヨーク州北部の寒い工業都市で、正直、NBAの華やかなイメージとはかなり遠い。
この時点では、まさか将来「LAのもうひとつのチーム」になるとは誰も思っていなかっただろう。
1978年サンディエゴ移転━「帆船」の名前をもらった理由
1978年、チームはバッファローからサンディエゴへ移転。ここで「クリッパーズ」に改名した。
クリッパーとは、19世紀にサンディエゴ湾を行き交った快速帆船(クリッパー船)のこと。港町らしい、なかなか洒落た名前だ。
ただし、サンディエゴ時代の成績は悲惨だった。プレーオフに一度も進出できず、わずか6年でこの街も去ることになる。
1984年「無断移転事件」━NBAの承認なしにLAへ引っ越した男
1984年、オーナーのドナルド・スターリングがとんでもないことをやらかした。
ブリタニカ百科事典によれば、スターリングはNBAの承認を得ずにロサンゼルスへ勝手に移転した。
NBAは当然激怒。法廷闘争に発展したが、結局移転は認められた。このあたりの強引さは、後にスターリングが人種差別発言で永久追放される人物だと知ると、なんとなく納得がいく。
こうしてクリッパーズは、レイカーズの本拠地ステイプルズ・センター(現クリプト・ドットコム・アリーナ)に「間借り」する形でLA生活を始めた。同じ建物にいるのにレイカーズが「家主」、クリッパーズが「居候」。この屈辱的な構図が、約40年間も続くことになる。

流浪の果てに得た「自分の城」━両チームの新時代とアリーナ革命
移転と放浪を繰り返した2チームは、ようやく「自分たちの場所」を手に入れた。サンダーは悲願の初優勝、クリッパーズは20億ドルの新城。流浪の物語は、ここで新章に入る。
サンダー2025年初優勝━移転から17年、シアトルの亡霊を超えて
ブリタニカのサンダー記事によれば、サンダーは2025年のNBAファイナルでインディアナ・ペイサーズを4勝3敗の激闘で下し、移転後初のNBA制覇を果たした。
オクラホマシティの街が歓喜に包まれた日、シアトルのファンはどんな気持ちだったのか。
「あれは本来、うちのチームだったのに」。その声は、おそらく一生消えない。
インテュイット・ドーム━20億ドル超の「居候卒業」宣言
クリッパーズのほうも、2024年に大きな転機を迎えた。
オーナーのスティーブ・バルマー(元マイクロソフトCEO)が私財を投じて建設したインテュイット・ドームが、2024年8月15日にカリフォルニア州イングルウッドで開場。ESPNの報道によれば、建設費は20億ドル超(約3,000億円)。収容人数は17,927人。
約40年間レイカーズの影に甘んじてきたクリッパーズが、ついに「自分の城」を手に入れた。居候生活の終了宣言だ。
「奪われた街」と「居候の船」━NBAの移転史が映す教訓
サンダーとクリッパーズ。この2チームの歴史を並べてみると、NBAにおける「フランチャイズの移転」がどれほど重いテーマかがよくわかる。
サンダーは街を奪われたファンの怒りを背負い、クリッパーズは自ら流浪を選んだ果てに巨額の城を建てた。
どちらも「自分たちの居場所」を求めて半世紀近くもがいてきたチームだ。
次にこの2チームの試合を見るとき、スコアボードの向こうにある物語を少しだけ思い出してもらえたら、NBAの見え方が少し変わるかもしれない。




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