2026年4月、Linux 7.0カーネルでPostgreSQLのスループットが約49%低下する問題がAWS技術者から報告された。Ubuntu 26.04 LTSへの採用も迫る中、企業の基幹システムに何が起きるのか。
Linux 7.0でPostgreSQLの性能が半減した技術的背景
原因はLinuxカーネルのスケジューラ変更だ。データベース本体ではなく、OSの足元が崩れたことで性能が半分に落ちた。
スケジューラ変更が引き起こした「スピンロック地獄」
AWSのエンジニアSalvatore Dipietro氏が2026年4月3日に報告した内容は衝撃的だった。
Linux 7.0カーネル上でPostgreSQLを動かしたところ、スループットが従来カーネルの0.51倍にまで落ち込んだ。検証はAWS Graviton4サーバーで行われている。
原因は、Linux 7.0でプリエンプションモードが制限されたことにある。これによりユーザースペースのスピンロックに費やす時間が大幅に増加し、PostgreSQLの処理が詰まるようになった。
要するに、OS側の「タスク切り替えルール」が変わったせいで、PostgreSQLが順番待ちの行列にはまり込んでいる状態だ。Phoronixの報道で詳細が確認できる。
カーネル開発者の主張「PostgreSQL側が直せ」の波紋
こういう問題が出ると、普通は「OS側で元に戻してくれ」と思うだろう。
ところが、Linux開発者のPeter Zijlstra氏はカーネル側のリバートを拒否した。代わりにPostgreSQL側でRestartable Sequences(RSEQ)というタイムスライス拡張を実装すべきだと主張している。
つまり「うちは悪くない、そっちが合わせろ」という話だ。
オープンソースの世界ではこういう押し付け合いが珍しくないが、影響を受けるのは開発者ではなく、そのデータベースに業務を預けている企業だ。
Ubuntu 26.04 LTSの採用で影響範囲が一気に拡大する
この問題が厄介なのは、タイミングだ。
Ubuntu 26.04 LTSがLinux 7.0カーネルを採用して2026年4月にリリースされる予定になっている。
LTSというのは「長期サポート版」のこと。企業のサーバーで最も多く使われるバージョンだ。
Linux 7.0の安定版リリースは2026年4月中旬の見込みだが、PostgreSQL側の修正が間に合わなければ、LTSに飛びついた企業が軒並み性能低下の直撃を受けることになる。

企業の基幹システムに波及するダウンタイムコストの実態
性能が半分になるということは、処理に倍の時間がかかるということだ。最悪の場合、タイムアウトやシステム停止に直結する。そのコストは想像以上に大きい。
Fortune 1000企業で「1時間1.5億円」が消える計算
Atlassianが引用するIDC調査によれば、Fortune 1,000企業のシステムダウンタイムコストは1時間あたり最大100万ドル(約1.5億円)に及ぶ。
大企業ではインシデント対応だけで年間6,000万ドル以上——日本円にして約90億円を費やすケースもあるという。
「うちは中小だから関係ない」と思うかもしれないが、取引先の大手システムがPostgreSQLで動いていれば、その遅延は自社の受発注や請求にも波及する。
OSSデータベース依存率69%という現実
PostgreSQLは「無料のデータベース」として急速に企業に浸透した。
Business Research Insightsのレポートによると、エンタープライズ開発者の69%がオープンソースデータベースを選好しており、クラウドデプロイメントは前年比30%増加している。
オープンソースDB市場は2026年時点で約172.8億ドル(約2.6兆円)規模。年率20%で成長を続けている。
これだけ普及しているからこそ、今回のような「OS側の変更でいきなり性能半減」というリスクが、広範囲に影響を及ぼす。商用DBならベンダーが対応してくれるが、OSSは自分たちで対処するか、コミュニティの修正を待つしかない。
サポート期間5年の落とし穴——稼働2年でバージョンアップを迫られる
日経クロステックが指摘する通り、PostgreSQLのコミュニティサポート期間は初期リリースから5年だ。
基幹系システムでは、稼働開始時点ですでに2〜3年前のバージョンを使っているケースが多い。となると、稼働後わずか2年でサポート切れのバージョンアップを迫られる計算になる。
今回のLinux 7.0問題と重なれば、「カーネル更新でPostgreSQLが遅くなった上に、バージョンも古くてパッチが来ない」という二重苦に陥る企業が出てくるだろう。

今すぐ確認すべきPostgreSQLバージョンと対応策
慌てる必要はないが、確認は急いだほうがいい。自社の環境がどこに該当するか、3つのポイントで点検できる。
まずカーネルバージョンを確認せよ
最優先は、自社サーバーのLinuxカーネルバージョンの確認だ。
・現在のカーネルが6.x系であれば、今回の性能低下は発生しない
・Linux 7.0へのアップグレード予定があるなら、PostgreSQLの修正パッチが出るまで待つのが賢明
・Ubuntu 26.04 LTSへの移行計画がある場合は、検証環境でPostgreSQLのベンチマークを必ず実施すること
AWSやGCPなどクラウド環境を使っている場合、プロバイダ側のカーネル更新で意図せずLinux 7.0に切り替わる可能性もある。マネージドサービスだからといって安心はできない。
2026年2月の臨時リリースで学ぶ「回帰バグ」の怖さ
実は今回のLinux 7.0問題だけではない。PostgreSQL自体にも最近トラブルが起きている。
PostgreSQL公式によると、2026年2月12日の更新版でsubstring()関数が非ASCII文字でエラーを起こす回帰バグが発生。さらにスタンバイサーバーが停止する問題も確認され、2月26日に臨時リリースを余儀なくされた。
影響を受けたのは14〜18系の全5バージョン。つまり、現行で使われているほぼすべてのPostgreSQLが対象だった。
「アップデートしたら壊れた」というのは、企業のシステム担当にとって最も恐ろしいシナリオのひとつだろう。
Linux 7.0への移行を急がない——それが今の最善手
結論としてはシンプルだ。
Linux 7.0への移行は、PostgreSQLの修正が確認されるまで待て。
・自社のLinuxカーネルバージョンを確認(uname -r)
・PostgreSQLのバージョンとサポート期限を確認
・Ubuntu 26.04 LTSへの移行はPostgreSQL側パッチ適用後に計画
・2月の臨時リリース(17.4、16.8、15.12、14.17、18.2の修正版)が適用済みか確認
・クラウド利用の場合、プロバイダのカーネル更新ポリシーを確認
Fujitsu Enterprise Postgresのブログでも2026年のPostgreSQL動向が整理されている。商用サポート付きのPostgreSQLを検討するのも、リスク軽減の選択肢のひとつだ。
新しいものに飛びつくのではなく、枯れた環境で安定稼働を続ける。40代以上のシステム屋なら身に染みている教訓だろうが、今回ばかりはその慎重さが正解になりそうだ。




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