第一次世界大戦では犠牲者の9割が軍人だった。ところが現代の紛争では、死ぬのは9割が民間人だ。この100年で「戦争で誰が死ぬか」は完全にひっくり返った。親父たちが聞いた戦争と、今テレビで映る戦争は、根本的に別物なのだ。
100年で逆転した「誰が死ぬか」——WW1は軍人9割、現代は民間人9割
たった100年で、戦争の犠牲者構成は完全に裏返った。兵隊が死ぬ戦争から、一般市民が死ぬ戦争へ。この変化を数字で追うと、背筋が寒くなる。
第一次世界大戦——「戦場で兵士が死ぬ」のが当たり前だった時代
1914〜1918年の第一次世界大戦。このときの犠牲者に占める民間人の割合は、約10〜15%にすぎなかった。
残りの85〜90%は軍人だ。塹壕戦で銃弾に倒れ、毒ガスに蝕まれ、泥の中で命を落とした兵士たち。
悲惨ではあるが、少なくとも「戦争で死ぬのは戦う人間」という構図はまだ成り立っていた。
第二次世界大戦——民間人の犠牲が軍人を逆転した転換点
それが第二次世界大戦で一変する。
米国立第二次世界大戦博物館のデータによれば、全世界の犠牲者は推定6000万〜7500万人。うち民間人の死者は約4500万人で、全体の約75%を占めた。
空爆、ホロコースト、原爆投下、飢餓——戦場と銃後の境界線が消えた。
ソ連では軍人880万〜1070万人に対して民間人は1300万〜1500万人。ポーランドに至っては、犠牲者560万人のうち96%にあたる536万人が民間人だった。軍人はわずか24万人だ。
1990年代以降——「犠牲者の9割が民間人」という現実
冷戦が終われば世界は平和になる。そんな楽観は見事に裏切られた。
赤十字国際委員会(ICRC)の報告では、1990年代以降の武力紛争における犠牲者の約90%が民間人とされている。
WW1の10〜15%から、100年で90%へ。数字がすべてを物語っている。
戦争は「軍人同士の殺し合い」から「市民の大量殺戮」に変質した。俺たちの親父やじいさんが経験した戦争と、今ニュースで流れる戦争は、もはや同じ言葉で呼んでいいのかすら怪しい。

数字が語る第二次世界大戦——国によってまったく違う犠牲の形
「第二次世界大戦」とひとくくりに言うが、国によって犠牲の中身はまるで違う。軍人が多い国、民間人ばかりの国。その差を見ると、戦争の本質が見えてくる。
日本——軍人230万、民間人80万の「軍人多数型」
日本のWW2犠牲者は約310万人。内訳は軍人約230万人、民間人約80万人だ。
東京大空襲、広島・長崎の原爆投下という凄惨な民間人被害がありながらも、比率で見れば軍人のほうが圧倒的に多い。
太平洋の島々で飢えと病気で倒れた兵士たち。南方で補給を断たれ、餓死した陸軍の数は、今も正確には分かっていない。
ポーランド——人口の17%が消えた「民間人壊滅型」
対照的なのがポーランドだ。
総人口の約17%にあたる560万人が死亡。そのうち軍人はたった24万人。残り536万人が民間人だった。
ナチス・ドイツの占領下で行われた組織的な虐殺、ユダヤ人のホロコースト、ワルシャワ蜂起の鎮圧——ポーランドの民間人は、文字通り「狩られた」のだ。
ソ連2400万人——世界最大の犠牲が意味すること
そしてソ連。犠牲者の総数は約2400万人。一国だけで、だ。
軍人880万〜1070万人、民間人1300万〜1500万人。民間人犠牲者比率の推移をまとめたWikipediaの記録を見ても、ソ連の民間人被害の規模は突出している。
独ソ戦の地上戦で街ごと焼かれ、レニングラード包囲戦では87万人が餓死した。
・日本:約310万人(軍人230万・民間人80万)
・ポーランド:約560万人(軍人24万・民間人536万=96%)
・ソ連:約2400万人(軍人880万〜1070万・民間人1300万〜1500万)
・中国:約1500万〜2000万人(民間人が大多数)
・ドイツ:約690万〜740万人(軍民ほぼ半々)
同じ「第二次世界大戦の犠牲者」でも、国の事情でこれだけ中身が違う。「戦争=兵隊が死ぬもの」という単純な図式は、もう通用しないのだ。

2024年、紛争件数は史上最多——それでも見えにくい犠牲者たち
「今の世界は比較的平和だ」と思っている人がいるかもしれない。残念ながら、数字はまったく逆のことを言っている。2024年、武力紛争の件数は第二次世界大戦後で最多を記録した。
61件・36カ国——戦後最悪の紛争ラッシュ
オスロ国際平和研究所(PRIO)の報告によれば、2024年は1946年以降で最多となる61件の武力紛争が36カ国で発生した。
ウプサラ大学の紛争データプログラム(UCDP)が記録した死者数は128,400人。
2010年以降、国家が関与する紛争の数はほぼ倍増し、紛争による総死者数は5倍に膨らんだ。「冷戦後の平和」なんてものは、とっくに終わっている。
ガザの数字——戦闘員確認わずか2%、残りは市民と不明
2024年の紛争で最も注目を集めたのはガザだろう。
Journal of Peace Researchに掲載されたUCDPの分析によれば、ガザ紛争の死者のうち戦闘員と確認できたのはわずか2%。民間人が48%、身元不明が50%だった。
身元不明50%という数字が重い。瓦礫の下から掘り出された遺体は、軍人だったのか民間人だったのかすら分からない。犠牲者が「見えなくなっている」のだ。
1億1730万人——故郷を追われた人々の記録的な数
死者だけが犠牲者ではない。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告では、2023年末時点で紛争や迫害により故郷を追われた人は1億1730万人を超え、過去最多を更新した。
1億人超だ。日本の総人口に匹敵する数の人間が、家を失い、国を追われ、どこかでテント暮らしをしている。
関西大学の研究が指摘するように、戦争の民間人犠牲者の正確な把握が始まったのは1980年代以降のことだ。それ以前の紛争では、民間人が何人死んだかすら記録されていなかった。
数えられるようになって初めて、俺たちは「戦争で本当に誰が死んでいるのか」を知ることになった。そして知れば知るほど、その現実は重い。




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